癒しのエネルギーが流れる

ノースショアの聖地
〜プウオマフカ・ヘイアウ〜

ある晴れた日の午後、愛車Scionを走らせ、ノースショアへと向かった。

 

ホノルルからパールハーバー方面へ向かうH1フリーウェイに乗り、降り注ぐ午後の陽射しを正面に浴びながら、西へ西へと走る。パールハーバーを通過してまもなく、右手に進路をとり、島の中央へとアクセスするH2フリーウェイへ。そして、終点ワヒアワタウンからハイウェイ99号線へ入り、パイナップル畑が一面広がる赤土大地の真っ只中を疾走する。

 

今日の目的地は、ププケア。優美なアーチを描くワイメアの入り江を過ぎてまもなく、珊瑚礁が隆起し無数の潮だまりをつくっているププケアビーチが見えてきた。 そこから山手に向かってまっすぐ上って行く道がある。この丘の上に、オアフ島で最大規模といわれる、古代ハワイアンの聖地があるのだ。

 

フードランドを左手に見ながら、Pupukea Roadを上っていくと、やがてヘアピンカーブが現れ、緑深いワイメア渓谷の尾根を辿る山道へと入っていく。ワイメア湾とそれに続くノースの美しいショアラインを眼下に眺めながら、急勾配のワインディングロードをゆっくりと上っていくと、右手にカメハメハ大王の標識… そして、「Puu O Mahuka Heiau」の案内表示が見えてきた。ここから右折して、山林の中を走るドライブウェイをしばらく進む。

 

一車線分の細くてラフなドライブウェイをゆっくりと辿り、山奥深くへと入っていく。深い森の中に延々と続く1本道…。やがて視界が開け、まぶしい陽射しの下に、緑の野原が現れた。その向こうには、傾きかけた陽光に輝く海と、抜けるような青空が広がっている。車から降り立つと、目の前に、石垣で囲まれた巨大な遺跡が姿を現した。

 

プウオマフカ・ヘイアウ…。時は、1770年代。のちにハワイ諸島を統一した大王カメハメハの命を受け、相次ぐ戦いの勝利と平和を祈願して、神官カオプルプルの手により建てられたという、古代ハワイアンの神殿だ。戦いのときには、生け贄が捧げれらこともあったというこのヘイアウには、戦いの神でありながら、同時に森の薬草と癒しを司る神でもあった「クー」が祀られ、今なお、その力づよいエネルギーが、辺り一帯に流れているかのようだ。

 

穫れたてのフルーツなど、地元の人たちの心尽くしの供物が捧げられている祭壇に向かい、しばし目を閉じ、祈りを捧げる。大いなる自然の中に神々の存在を見い出し、それを深く崇拝してきたハワイアンたちの心が、今なおここに息づいているのが、はっきりと感じられる。この地に再び来られたことを感謝しながら、石垣の周りをぐるりと巡るトレイル(散策路)を歩き始めた。

 

静寂な空気の中に、時折聞こえる鳥のさえずり…。肌をすりぬけていくやわらかな風とさわさわとそよぐ草木の音が、身も心もやさしく包み込んでくれる。ヘイアウの裾をぐるっと廻り、反対側に出ると、その先は切り立った崖になっていて、眼下には白波が押し寄せるワイメア湾が広がっていた。

 

崖沿いに祭壇の方へと歩みを進めていくと、存在感のある大きな岩の傍らに、真新しい切り株が顔を出している。そういえば、かつてここには大木が立ち、気持のよい木陰をつくっていた。あるとき、その木陰で休もうとして、不思議な音を聞いた。クリクリクリ…という、どこかはかなげで生々しい音。そのとき、なぜだかわからないが、この木は私たちに何か話しかけている…と感じたのだった。

 

まるで精霊が宿っているかのように思えたその大木は、もうない。ただ呆然と、そこに残された巨大な切り株を眺めていたら、ふと何かを感じた。何百年にも渡ってこの土地を守り、見守り続けてきた精霊たちの溜め息が、どこからか聞こえるような気がした。

 

(写真/文:ふなはしまさこ)

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